老兵
最近、ヒデがチャリティーマッチやってましたね。非常にいい試みだと思う。どれだけ多くの人が真剣にヒデのメッセージを受け止められるかは、疑問だが。
チャリティーマッチの話は別にして、個人的に中田英寿は好きでも嫌いでもないです。まぁ、魅力的な生き方をしてるとは思う。
東ハトの役員就任など、サッカーだけじゃない。ビジネスマンとしての顔を持ち合わせてますよね。
多分、彼の中には「サッカーだけしか知らない人間になりたくない」という気持ちがあるんでしょう。世間が大騒ぎしたあの年齢での引退も、彼のキャリアプランの中ではある程度、必然的なものだったんでしょうね。
サッカー以外の可能性を探すために、引退。
終身雇用制が崩れ、自分の価値観やキャリア設計に見合った転職をする現代人の象徴のような生き方をしてますよね。自分の可能性を一つのことに縛り付けずに、多様性を求める生き方。器用な生き方。特に彼の場合は結果や実績を残していて、華もあるから、人気があるんでしょうね。間違いなくサッカーのスキルだけではない。
俺はこういう生き方を否定はしない。否定する資格もない。俺だって今は記者として頑張っていくつもりだけど、10年後、20年後どうなっているかは分かりません。フリーライターになってるかもしれないし、ジャーナリストとは全然関係ない職業に転職してるかもしれない。いきなり料理の道に目覚めて、フランスで武者修行してるかもしれない。もちろん本気で記者になりたくてなったワケですが、少なくともそういう可能性があること、そういう可能性を捨て切っていない自分がいることは事実です。
だからこそ、俺はカズを尊敬します。
三浦知良。
情熱だけを頼りに、15歳でブラジルに渡り、40歳を過ぎても体力と身体の限界点でプレーし続けている。彼は自分の人生の伴侶にサッカーを選んだ。何かを選ぶということは、何かを捨てることでもある。彼は15歳でその決断をした。それは、若さの部分も大いにあったと思うけど、「若さ」だけで簡単に決められる問題じゃない。
フランスでの落選、クラブチームでの戦力外通告。J2でのプレー。結果を出せなければ何度も浮上した「カズ不要説」。勇退するチャンスはいくらでもあったけど、彼はサッカーを続ける。呆れるくらいにサッカーを続ける。
ヒデが現れ、俊輔が現れ、小野が現れた。彼らの海外リーグでの成功は、同時にカズの実績と評価を相対的に低下させた。
「まるで自分が否定されたようだった」とカズは振り返る。
優勝争いとは無縁のクラブチームでも出場機会は少なく、自分に憧れてサッカーを始めた人間に、ポジションを奪われる。代表に召集される可能性は皆無。98年のフランス大会から日本とW杯の距離は急速に接近したけど、カズとW杯との距離は変わっていない。これからも、きっと変わることはない。カズがW杯を語れば「まだやってんのか」「往生際が悪い」と人は笑う。
確かに不器用だけど、俺は格好悪いとは思いません。
ヒデの生き方が脚光を浴びるたびに、カズが否定されたような気がして、俺は悲しくなる。ヒデと同じくらいスゲェ生き方をしているサッカー選手がいることを忘れないで欲しい。個人的には全盛期のカズより、今のカズからの方が学ぶべきことが多い気がするよ。
ラモスは引退試合で「魂でサッカーをした」と言った。カズもきっと魂でサッカーをしてます。
全身全霊を賭けて何かをする、あるいはそういうモノを見つけられたということは、凄く幸せなことだ。俺は意外と全盛期の選手よりも、現役に必死にしがみつく老兵が好きです。有り余る体力や若さではなく、誇りや冷めやらない情熱で戦う姿は、格好悪いけど、格好いい。
ヒデではなく、カズのように生きたいですね。できれば。
今はただ、俺にとっての記者が、カズにとってのサッカーであることを願うばかりです。
カズの自伝「おはぎ」、読もう読もうと思ってまだ読んでません。読まないとね。