秋の夜長

オカンはかなりの読書家です。

「目を閉じて母親の姿をイメージしろ」と言われれば、俺の頭の中には文庫本を読みふけるオカンが浮かんできます。ちなみにそのオカンは何故か三角座りです。横にはコーヒーだ。

実家の本棚には夏目漱石森鴎外芥川龍之介志賀直哉太宰治川端康成らを始めとする、いわゆる近代日本の文豪と言われる作家達が根こそぎ全集で仲良く並ぶ。そして古今東西、和書洋書を問わない文庫本が整理仕切れないほどに巨大な本棚2つに押し込まれています。それはもう冊数で表すよりも、重量で表すべきレベルなのです。さすが文学部出身。すべて古本屋に売ったらかなりの金額になるはず。初版本なんかはプレミアつくしね。

今日、イワモトが俺の部屋から借りて帰ったデビット・ゾペティの「いちげんさん」も、おそらくオカンのモノだ。

おそらく、という表現になったのは兄貴も半端ではない読書家なのです。こちらは実用書や新書で、部屋を埋め尽くす。イワモトが欲しがってた平凡社の「実践ジャーナリスト養成講座」は兄貴の本です。本当にオカンと兄貴は、本を読む。俺の実家は火事になったらよく燃えますよ。燃やさないでね。

ところが、当の俺はときたら、これがサッパリです。もちろん大学生の平均を著しく下回ってはいないと思うけれど、あの二人に比べれば鼻くそ程度の冊数しか読んでいない。100冊とか、150冊とか、そんなレベルでしょう。間違いなくオトンの血に中和されてしまった。オトンはまったく本を読まない…。

「本を読まなければ馬鹿になる」。浅田次郎は、エッセイの中で断言してます。これは、間違いじゃないはずだ。ある程度の能力があれば、後は知識量の差になる。もちろん知識の効果的な活用の仕方やら発想力やらも大事ですが、弾がなければ鉄砲は撃てねぇよな。俺には弾がありません。4年かけて出来上がったのは、頼りない鉄砲だけです。

この秋は本を読みます。