鯖缶

バイト終わりに館長が鯖の缶詰をくれました。

197円という値札が貼られた鯖缶。そこらへんのスーパーに山積みされてるような、普通の鯖缶です。何故かこれが思いのほか俺を苦しめます。俺はバイト場で館長や司書さんから「細いな〜」と言われる度に「あんまり飯食ってないんすよ」と答えてました。故に館長は飯の食えてない俺の為に、「こんなんで申し訳ないけど」と照れながら鯖缶をくれたワケです。

俺がバイトを続けているのは金の為です。必要以上に周りの人間と仲良くなろうとは思ってません。司書さんや館長の話に便宜的に相槌を打ち、愛想笑いをする。つまらん話でも、大仰にリアクションを取る。正直、アホらしいと思ってました。半年後にあっさりと辞めるのが分かっていたら、尚更です。むしろ早くおさらばしたいというのが本音です。

そんな俺にみんな優しくしてくれます。司書さんは「この本いいよ!読んでみて!」と図書館カードを作ってくれ、館長は鯖缶をくれる。たまに飯も奢ってくれました。鯖缶というチョイスには疑問は残るが、そこは大きな問題じゃない。でも罪悪感を感じたところで、どうしようもない。ただ巧く言語化できないけれど、こんな自分は少し残念だと思う。俺は時給800円分の働きをしていても、197円の鯖缶を貰えるほどの誠実さを彼らに対して持っているだろうか…。