歩兵の本領

バイト終わりに御所を2周。息もきれぎれに8キロを完走し、冷えたコンクリートの上でスクワット80回、腕立て40回。腹筋は背中がコンクリートに打ちつけられて痛かったので20回。

筋肉に乳酸が蓄積されていく感覚と、「あと10回!」を「やっぱり5回…」にしてしまう己の意志の弱さと久しぶりに再会しました。明日、さすがに下半身は筋肉痛だろうな。

さて、なぜ急にこんなことを始めたのかと言えば、やっと浅田次郎の「歩兵の本領」を読み終えたからです。

歩兵の本領 (講談社文庫)

浅田次郎自衛隊出身という珍しい作家です。彼は東京の名門進学校を卒業した後、京大を目指す為に1年間浪人することを選択するが、その浪人中に傾倒していた作家である三島由紀夫自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺をしたことにやんごとなき衝撃を受ける。そして浅田青年は自らが傾倒した一人の文豪の奇行に納得できず、受験をほっぽり出して、その答えを探す為に実際に自衛隊に入隊してしまいます。ちなみに浅田は生前の三島に実際に遭遇してます。言葉は交わしていないのだけれど、あれは運命だった、とか抜かしてるところが自意識過剰で可愛い。

そんな浅田次郎に昨年、取材する機会があったのです。その時、彼はインタビュアーである俺達に「若いうちはとにかく体を鍛えなさい。文弱では駄目だよ」と、静かに言いました。

なんだかんだと理由つけて、俺にとってはもはや啓示とも言うべきその言葉を今の今までシカトしてたんですが、「歩兵の本領」を読了後、ついにやる気になったワケです。すげぇよ、浅田。浅田青年もあんなにきっつい訓練をして、失敗とも言えない失敗で理不尽に殴られてたんでしょうか。

「とにかく体を鍛えなさい。文弱では駄目だよ」。浅田の自衛隊経験が詰められたこの本を読んで、その言葉に現実味と重みが増しました。遅咲きの作家生活十数年で70冊以上の本を世に送り出すには、経験値・発想力はもとより、最後は体力なのです。いい仕事をするには健全な精神、そしてそれを支える健全な肉体。そして奇しくも、扱う内容は随分と違いますが、来年から俺も物書きの端くれです。浅田青年が三島に勝手に運命を感じたように、俺も勝手に運命を感じてます。ま、それほど傾倒してるワケじゃあないんですがね。

ちなみに浅田次郎を読むなら「蒼穹の昴」がお薦めです。代表的著作とされてる「鉄道員」は個人的にいまひとつでした。では、久しぶりに味わう筋繊維の再結合の痛みを楽しみにしつつ、短い眠りにつきます。明日はイワモトの引越しの手伝いです。筋トレ代わりに頑張ってきます。では。